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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の出現により、世界はかつてないスピードで変化を続けている。それはコンサルティング業界も例外ではない。クライアントが抱える課題もこれまでとは変化している――。そう話すのは、「これからのコンサル」というキーワードを掲げ、新たなる経営ビジョンを打ち立てたPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)で代表執行役CEO(最高経営責任者)を務める大竹伸明氏だ。現代の企業は、世界の変化に応じた複雑な課題をいくつも抱えている。そうした状況で、新しい時代のコンサルタントはどのようなソリューションを提供していくべきか。大竹氏の言葉から、次世代のコンサルに求められる価値を探る。
目次
これまで以上に重要視されるスピード感
――PwCコンサルティングは「これからのコンサル」というキーワードを掲げていますよね。Web上では「#inclusive」や「#transformation」など8つのハッシュタグを用いて“これから”を表現されていますが、大竹さんはこれからの世界をどのように捉えているのでしょうか。
大竹:これからの世界を考える上では、COVID-19の影響によって生じた変化をもとにすると分かりやすくなります。こうした大きなターニングポイントを乗り越えるためには、3つのステップが必要です。1つ目が「アセスメント」。この状況が業界および各社にどういった影響をもたらすのか。このアセスメントは、世界各国でほぼ完了しているといっていいでしょう。この後、2つ目のステップとなる「リフレーム」、そして3つ目のステップ「トランスフォーム」という段階を経て変化していくと考えています。
――つまり、現在(2021年8月)は2つ目の「リフレーム」フェーズであると?
大竹:COVID-19により、どのような影響がでるのかはある程度分かってきた。その上で、これまで練ってきた戦略や計画をどう組み直して、どの順番でいつまでに仕上げるのかを検討する段階にきているわけです。
――計画の見直しによる「再計画」が終わったあとに訪れるのは「変化」ですね。このタイミングで求められることはなんだと思いますか?
大竹:大きなポイントとしては、そのスピード感です。コロナ禍以前であれば「この改革は7年かけて実現しましょう」という長期で慎重に進めるようなプロジェクトも許容されていました。ですが、これだけ大きなリセッションが起きたとなれば、経営者の思考回路も変わります。
最も分かりやすいのは、大企業における意思決定や社内コンセンサスの時間短縮。COVID-19によって、少なくとも役員間での議論に時間を割くことは少なくなりました。目まぐるしく変化する環境の中で、短期間で変革を遂げなければ、自社の未来に影響すると考えるのは、ごく自然なことといえるでしょう。
やるべきこと、やめるべきことを即座に決定し、1年か2年以内には新事業を形にしたい。そのために専門家の意見を取り入れて、一緒に変革を進めたいという依頼が増えています。業界による濃淡はありますが、ビジネス全体のスピード感が上がっていることは間違いありません。「これからのコンサル」は、緻密な戦略をいかに早いスピードで実現まで持っていくかを問われることになるでしょう。
信頼性とサステナビリティ。2つの軸で企業を成長させていく
――スピード以外で変化しているところはありますか?
大竹:PwCでは、世界の変化を捉えた新たな経営ビジョン「The New Equation」を2021年6月に発表しました。その中で、大きく2つの面に焦点を当ててクライアントや社会に貢献していくことを宣言しています。
1つ目の焦点は「Trust」、すなわち持続的成長の礎となる信頼の構築です。ステークホルダーが重視するテーマの幅はますます拡大しているため、幅広い分野で信頼を構築しなければなりません。私たち自身が規範的で、信頼される存在でなければならないのはもちろんのこと、クライアントの社会での信頼構築についても徹底的にサポートします。
もう一つは「Sustained Outcomes」の実現、すなわち競争や破壊的なイノベーションのもたらすリスクがいっそう激しさを増し、社会からの期待がこれまでにないほど高まる状況においても、確固たる成果を生み出し続けていくことです。企業が資金、人材、顧客を獲得するためには、より迅速で、より徹底した変革が必要です。しかし多くの場合、狭い視野で変革に取り組んでも、想定した成果は得られません。新しいアプローチが求められているのです。
そもそも企業という存在は、継続的に成長することが求められます。しかし、これまでとは「成長」という言葉のニュアンスが変わってきているように感じます。どんな手法でもいいからトップラインを押し上げる、というような施策では社会から受け入れてもらえない。つまり継続的に成長を遂げることは難しいのです。
――1つ目のトラスト、つまり信頼を獲得するためには何が大切なのでしょうか?
大竹:規則やコンプライアンス、そして社会貢献価値があるということをオープンに適切にコミュニケーションしていくことです。
規則などは、会計監査を含め、ある程度の枠組みや基準がありますから、チェックしやすいですよね。難しいのは、サステナビリティが重視される世界で社会貢献をどのように評価していくかということ。PwCでは独自のESG(Environment・Social・Governance)評価ツールも開発していますが、まずは企業活動を社会貢献の視点で見える化することが必要です。
どんな取り組みをおこなうのか、なぜその分野で貢献していこうと考えているのか、その課題が解決されることで社会にどのようなインパクトをもたらすことができるのか。そうしたことを網羅的な視点で捉え、優先順位を付けなければなりません。
整理整頓と優先順位ができているかどうかでESG投資家のアクションも変わってきますし、生活者の方や連携する企業、銀行に対しても、オープンで公正に伝えていくことが何よりも重要です。
――世界と比較したとき、日本の社会貢献活動はどの程度進んでいるのでしょうか?
大竹:残念ながら現時点では日本が先頭を走っているとはいえません。欧米では脱炭素社会を宣言しており、すでに数値目標を塗り替えるケースも出ています。判例や要請が出ている領域もありますし、これらに比べるとやはり日本の動きは遅いといわざるを得ないでしょう。
――PwCはグローバルなネットワークを持っていますよね。そういう意味では、日本を最先端へと押し上げることができるのではないでしょうか。
大竹:その通りですね。PwCはネットワークを生かし、世界各国の知見を持っているといえますので、それらを日本で応用することが可能です。たとえば、電力使用量の約4割が火力発電でまかなわれている日本には、CO2排出量が非常に多いという課題があります。
そうした中で電力会社の皆さまは、これから本気で脱炭素社会に向かおうと全力を傾けている。私たちも欧州の先進的な事例を基に具体的な解決策を共に考えたり、専門家をお呼びして彼らの経験を共有したり、数多くの支援策を実施しています。
戦略とトランスフォーメーションを一体化した、スピード感のあるチーム作り
――PwCの強みをもう少し詳しく伺えればと思います。すでにさまざまなところで言われていることかもしれませんが、PwCは“コラボレーション”の文化が強いですよね。
大竹:PwCコンサルティング社内はもちろん、監査法人や税理士法人といったPwC Japanグループ(以下、PwC Japan)の各法人、そしてグローバルレベルでの連携も大きな特徴だと思います。新卒中途問わず、新しく当法人に入社した方は「コラボレーション文化が素晴らしい」と言ってくれますね。
どこが素晴らしいと思うのか聞いてみたことがあるのですが、皆さん共通していたのが「グループ内に各領域のスペシャリストがいて、積極的にコラボレーションしている」ということ。PwC Japanでは各分野のスペシャリストが協働による連携で価値を提供しています。しかも日本だけでなく、世界中のネットワークを活用することもできる。世界で活躍しているリーダーやスペシャリストとの出会いが、大きな刺激になっているようです。
――専門的な知見をベースにクライアントの課題を解決していくPwCだからこその特徴だと感じます。
大竹:そうですね。その上で、PwCコンサルティングのファームとしての強みは次の3つだと考えています。
1つ目がクライアントフォーカスの強さ。インダストリーの知識をベースにした上で、その企業特性を深く理解していきます。クライアントごとにチームを作り、徹底的にお客様のことを勉強してネットワークを広げていくんです。時にはクライアントの役員とメッセージアプリで情報交換しながら提案を進めることもありますね。
2つ目はテクノロジーコンサルティング。たとえば、AIを経営の中枢で活用し、経営の意思決定や実行を超高速化させる「AI経営」という方法論を使い、イノベーション創出を支援しています。
他にも、ハードウエアやソフトウエアでロボットを業務に導入する活動や、どのようにテクノロジーを活用すれば経営や社会、人々の暮らしに役立てられるかを常に追求しています。Business、eXperience、Technologyを融合したBXTアプローチにより、デジタル時代の価値創造をサポートするエクスペリエンスセンターもありますし、現在はパートナー企業を含めて最先端テクノロジーを軸にした次世代の価値提供を模索するための機能も建設中です。
そして3つ目が、戦略コンサルタントのクオリティー、つまり一人一人の人材の質です。COVID-19による変化の一つに「スピードの重要性」をお伝えしましたが、現代においてそのスピード感を実現するためには、戦略からトランスフォーメーションを一気通貫でサポートできる人材が欠かせません。
そうした人材をチームとして育成するために、PwC Japanの中で経営層の戦略アジェンダを担う部門「Strategy&」を引き続き強化するとともに、変革やテクノロジーの専門家を集めStrategy&とより密に連携し実行戦略まで幅広い支援を実現できるよう、2021年7月には「ストラテジーコンサルティング」という新たなグループを立ち上げました。
「同化」ではなく「理解」すること。このスタンスが、イノベーションを加速する
――必要とされる技術や専門性を持った人たちが集まってコラボレーティブに活躍していることがPwCの最大の特徴ですね。そんなPwCは現在、どのような人物を求めているのでしょうか。
大竹:「今も昔も変わらない」資質と「今だからこそ必要としている」資質の2種類があると思っています。「今も昔も変わらない」のは、内発的な動機付けが強いこと。もしくはそうしたモチベーションをさらにはっきりさせてドライブしていきたいと思っている人ですね。
コンサルタントの仕事は、プロジェクトごとに時間や予算、メンバーも決まっていて、アウトプットする形も決まっています。その結果がマルかバツかだけなので、ある意味では究極のジョブ型人事。だからこそ、誰かに目標を決められるのではなく自ら高みを目指せるような、内発的な動機付けが強い方に向いていると思います。
「今だからこそ必要としている」資質は、オープンイノベーションへの対応力ですね。組織の枠組みにとらわれることなく、技術や知識の吸収に前向きな方といってもいいでしょう。
いくらPwCがグローバルでの知見を備えているといっても、これだけ変化の早い時代において私たちだけでは解決できない課題があることも事実です。社会課題の解決や企業経営の高度化を実現するためには、オープンイノベーションやインクルーシブな行動力は欠かせないと考えています。
――企業の枠組みを飛び越えて、課題解決のために自由な動きをそれぞれが見せていくということですね。
大竹:それこそが多様性だと思います。「右向け右」という指令で全員が右を向いていては、社会課題の解決はできません。少し古い例ではありますが、ヨーロッパサッカーは組織力、南米サッカーは個人技が特徴的だといわれていました。ですが、今はそれらが融合されていますよね。「個人技はもちろん必要だけれど組織力もないとダメだよね」と。コンサルタントもそういう時代になっていて、それぞれが持つ個の力をどうチームの力につなげていくかが求められていると思います。
多様性の中で、お互いのことを理解しながら共にプロジェクトを進めていく。その際に重要なのは、相手を理解した上で同化しないということです。クライアントにはクライアントの立場がありますし、税理士、会計士、コンサルタント、そしてパートナー企業、それぞれに考え方や思いはある。相手がなぜそう言っているのかを理解した上で、同質化することなく議論を深めていくことが大切です。
同化ではなく、理解すること。そうしたスタンスでイノベーションを加速させることこそが、「これからのコンサル」に求められるポイントだと思います。
――これから社会に出ていく学生たちにメッセージをお願いします。
大竹:先ほどご紹介した新しい経営ビジョン「The New Equation」の中で、PwCは今後5年間に120億米ドルを投資し、グローバルで10万人の新規雇用を創出するということも掲げています。この内容が一人歩きして、「大量採用で希少価値がなくなるのではないか」と誤解されている方もいるようです。
たしかに5年で10万人というのはインパクトがある数字ですが、大切なのは結果ではなく何のために増やすのかという目的意識。私たちは、テクノロジーコンサルティングのように「まだ世の中にない」領域や、戦略とトランスフォーメーションを両方語れる「希少価値の高い」人材を増やそうとしています。必要となるケイパビリティを足し上げていったら、結果として10万人になったということですね。
まさに右向け右で、10万人に同じことをやらせようとすれば、今いるスタッフも辞めてしまうでしょう。私だって黙って辞めると思います。しかし、PwCの考え方はそうではない。私たちは、多様なスペシャリティを持った人材が集うことで、クライアントや社会の抱える複雑な課題を解決することを目指しています。
10万分の1になるのではなく、オンリーワンの存在が10万人もジョインしてくれる。そう考えるとワクワクしますよね。ぜひ皆さんも、ここで誰にも負けないスペシャリティを身に付けてください。
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