『テクノロジーが創り出す新たな世界で「価値あるキャリア」を歩むためには』DigitalBCG「高部陽平」氏が語る、デジタル化社会におけるプロフェッショナリズム観<前編>
2021/06/11
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「市場価値」「プロフェッショナリズム」とは何か。そして、いまデジタルやテクノロジーが世の中をどのように変えているのか。我々はそれとどのように向き合いながらこれからのキャリアを築いていくべきか。
2005年にBCG(ボストン コンサルティング グループ)に入社、現在デジタル専門組織「DigitalBCG」の日本リーダーを務める高部陽平氏に、これから社会に挑む皆様へのメッセージをお話いただきました。
※本コラムは外資就活ドットコムにて開催したイベント「Job Discovery ONLINE」での基調講演の内容をまとめた記事の前編となっています。
後編(質疑応答編):『社会に与えるインパクトの大きさが「達成感」の指標』DigitalBCG「高部陽平」氏が語る、デジタル化社会におけるプロフェッショナリズム観<後編>
- はじめに
- 「市場価値」「プロフェッショナリズム」とは何か
- デジタルテクノロジーの発展は「仕事の価値」をどのように変えるか
- 質疑応答
- 「デジタルトランスフォーメーション」とは
- CASE1:AIによるマーケティングの自動化
- CASE2:ブロックチェーンがもたらす社会的インパクト
- キャリアについて考える時のポイント
- BCGについて
目次
はじめに
みなさんこんばんは、ボストン コンサルティング グループの高部です。
本日は「私が今までどのようにキャリアを作ってきたか」「BCGという会社がどういうビジネスをしているのか」という内容とともに、皆さんにメッセージをいくつかお送りしたいと思っております。
私自身は元々海外での生活が長かった関係もあり、一時期ミュンヘンのオフィスに転勤していました。業界で言うと保険領域でして、インド、中国、東南アジア、オーストラリア、韓国、日本といったアジア全体の領域を担当しています。
デジタルキャリアについてだけではなく、もう少しグローバルな領域についてのご質問もあれば併せてお答えします。
「市場価値」「プロフェッショナリズム」とは何か
まず「コンサルティング」というビジネスについて、よくご存じの方もそうでない方もいらっしゃると思うので、少しお話をさせていただきます。
私がやってるコンサルティングというビジネスとは、クライアントの組織の「何のために存続し企業としてビジネスをやるのか」というあるべき方向性を明確にするようなビジョン、パーパスから始まり「今の社会環境に合わせてビジネスをやっていくためにどういうことに取り組む必要があるか」いわゆる経営アジェンダを、経営者と一緒に組み立てるという経営者の相談相手ということをやっていくのが1つの仕事です。
中期戦略の策定や、ビジョンの策定といったプロジェクトはこういうところに該当するものになります。
その後、クライアントが例えば「新しいビジネスを起こしたい」「オペレーションやサプライチェーン等を直していきたい」「人材など、新しい社内のコーポレートの仕組みを直していきたい」などといった取り組みを実行するにあたり、我々からは「どのようなやり方をしていくと成功確率が高そうなのか」というノウハウを提供しながら、変革のご支援を行っています。
実際、コンサルタントという仕事は、クライアントの企業が継続的に進化していくサポートを場面場面で行うような仕事だと感じています。
その中でも特に「デジタル」領域については、大前提として技術を分かっていないとアジェンダがとれない、何か実行する際の効率が上がらない、ないしは根本的な何かを見落としてしまうようなものになってきています。
「デジタルか、デジタルじゃないか」という議論自体にあまり意味がなくなってきています。こういうものを取り込んだ、一つの企業としての進化を我々がお手伝いしていると認識しております。
「市場価値」「プロフェッショナリズム」についての私自身の考えをお伝えします。
クライアントにもCxO、CEO等色々なポジションの方がいますが、概して「トップレベルのクライアントから必要とされるかどうか」ないしは「こういうことをやるのであればこの人と働きたいか」だと思います。
クライアントからしても当然、経営のイシューなどに取り組むのは一世一代の大仕事で、ある意味キャリア、人生を賭けて仕事をされているわけです。そのときに一緒にやる相手として選んでいただけるかどうかというところが 「市場価値」を量る最大の目安なのかなと思います。
これはコンサルタントの場合であればCxOが究極のターゲットになりますが、「どんな会社、組織に入られても、周りの人から見て必要としてもらえるか、一緒に働きたいと思ってもらえる人か」をとるのは共通のことかと感じています。
加えて「プロフェッショナル」とは「自分の持っている専門性や知見を生かして成果を出すということ」だと考えています。
専門性や知見を持っていても結果に結びつかないと意味がないので、何か期待されている成果に紐付ける。自分の知見をクライアントに伝え、新しい仕組みをデザインして組織を動かし、結果を出す。そこまでをどうコミットして一緒にやっていけるかが問われるのがプロフェッショナリズムなのかなと、個人的には考えています。
このように考えたときに「自分が持っている専門性をうまく活かしながら成果を出し、その結果が出るからまた一緒に働きたいと思っていただける」というループを回していくことが、皆さんがキャリアを作っていく中でひとつ大事にされるといいことなのかもしれないなと考えています。
デジタルテクノロジーの発展は「仕事の価値」をどのように変えるか
ここから少し、皆さんがキャリアを考えていく将来の話をするにあたり「デジタルやテクノロジーが世の中をどう変えていて、我々は何について考えなければいけなくなっているのか」についての話を少しさせてください。
デジタルは新しい接点を生むことができる技術です。企業からすれば、従来の人間頼りのチャンネルからデジタル化によって色々な接点が使えるようになると、チャンネルを無限に広げることが可能になる。
その接点で新しくお客様と繋がっていくとなると、その裏では当然そのお客様の行動などがデータとして生まれてくる。そのデータを活用して更にサービスを良くすることが可能になり、新しいサービスや物事の改善が進む。
このサイクルが人間が介在しなくても回り始めているのが今の新しいパラダイムであり、デジタルについて理解するべき1つ目のポイントだと考えています。
そうなったときに、どこにでもアクセスできるようになったが故に色々なところにリソースを投下してしまうと、広がりすぎて非効率になってしまう。本当の意味で「どういうお客様に我々は価値を提供するのか」を考え直さなければいけないのが一つ目のポイントです。
また、色々なプレイヤーが色々なことをできるようになってくると、どんなプレイヤーもある日突然競合になる可能性があります。そうしたときに「いつでも選ばれるものを作り、戦いに勝てるような設計」を再定義するのが二つ目のポイントです。
三つ目のポイントは、既存の組織運営の仕方は当然デジタル技術やデータがない時代に作られたものなので、自分たちの企業の運営の仕方自体を変えなければならないことです。
デジタルという技術が普及して社会が変わってきたことにより、企業がありとあらゆる要素を考え直し、結果としてトランスミッションしなくてはいけない時代になっています。
このような状況下で、個人単位ではどのような影響があるのか。
従来の世界では、「物を作れば作るほどコストは安くなるので収益性で勝負する、つまりたくさん作ってシェアをとる」ことや、「イノベーションをなるべく早くするためにどれだけ人がやっている仕事を効率化し、そのサポートをどれだけ機械にうまくやらせるか」などといったことの繰り返しこそが企業の競争であり、また人と機械の役割分担であったと思っています。
そして従来企業というものは1日1日ないしは数ヶ月、年間単位でプランニングして仕事を回し、その企業の中にいる個人や会社自体のことを考えながら仕事をしてきました。
しかしAIや、データを活用するようなサービス等の出現により「人間よりもよほど早く物事を判断し、ミリ秒という世界で意思決定のサポートをして物事を改善する」という作業が可能になっている。
それだけではなく、様々な周辺のサービスやプラットフォームからデータを集めてきて、エコシステムによって企業の枠組みを超え、人間では意識出来ないスピード感で物事を裁いていく。
そのような世界が広がってきていることを理解しながら、人間としてはエコシステムによって広がった、今までの企業単位の延長ではない世界で価値をどのように出していくのか、こういったところを考えなくてはいけないと我々は今考えています。
従来の「人の仕事が物事の早さを競争する」という世界から、「機械に何をさせるか、技術がどう動いていくか」を理解した状態が前提の、新しい価値観になる。
こういった形で、個人個人の仕事の仕方は変わっていくと考えています。このような世界観の中で、「自分がどういうところで活躍していくのか」という問いが個人に突き付けられています。
ここまで、デジタル化によって社会がどのように変わってきていて、個人の仕事の仕方にどう影響を与えそうなのかというお話をしてきました。
ここからは、我々が経営者と一緒にどんなデジタルトランスフォーメーションをやっているのかという具体的な中身の話に移っていこうかと思います。
質疑応答
Q.「より速くできる機械に仕事を任せつつ、人にしか出来ないことを私達がやっていく」にあたり、例えばどのようなプレーヤー、あるいはスキル・職種がより重視されていくとお考えでしょうか。
A. 今のデジタルの時代には「優れた体験を提供することでユーザーを集め、新しいビジネスモデルが生まれてくる」というひとつの流れがあります。
顧客の体験をデザインするようなデザイナーの思考、それはひょっとすると絵に描くようなことかもしれませんし、UI/UXのような物かもしれません。色々な幅がありますが、ユーザー体験を良くする「デザイン」の発想は、外せない切り口になっているかなと思います。
またシステムを走らせるためにも、どこでデータを集めてくるか、それを正しいデータだとどう確認するかを含めたプロセッシングが必要です。
プロセッシングの手法はAIだったり機械学習だったりしますが、データの流れをデザインしながら、データを活用できるAIのエンジンを作れること、ないしはエンジン自体は作れなくても、最低限それがどういう風に機能しているかを理解できること。こういう力が、今後社会に出る方のある意味、必須事項となってきているのかなと感じています。
Q.自分でプログラムを実装できる能力は別に必須ではないものの「AIやプログラムによって何が出来るのかを理解した上で戦略を立てられる」というのがコンサルタントの必須スキルになってきている?
A.そうですね。何かを新しくデザインしたり、AIで作ろうとしたりしたとしても「作成にどのくらい時間がかかるか」「どのくらいのスピードを出せるのか」結局それが1ヶ月なのか3ヶ月なのか、どうタイムラインを引いていいか分からなければ、戦略のプランが立てられない。
できればシステムを1回くらい作った経験があり「なんとなくこういうふうになるよね」というイメージが湧くことや、実際の実行を担保できることは、非常にクリティカルな知見になってきていると感じます。
Q.デザインやデザイナーについて仰っていたのは、必ずしもアプリの画面などを直接デザインできる人というわけではなく「どういう顧客体験を提供できれば満足してもらえるのか」というプランや戦略を描けることをもって「デザイン」と仰っていると認識で宜しいでしょうか。
A.そうですね。ビジネスモデル自体を描く、ということから含めて考えていただけると幸いです。
「デジタルトランスフォーメーション」とは
こちらは我々が経営者の方と「デジタルトランスフォーメーション」について話すとき、考える要素を挙げたものです。
一番上の塊はそもそも「自社のビジネス戦略とデジタルの戦略をどう組み合わせて価値を出していくのか」です。その企業のコアとなっているビジネスモデルの部分を、デジタルによってどのように強化し差別化していくのかという「コア事業×デジタル」という世界。
ないしは、新規ビジネスの設立も含め、周辺領域に進出して新たな成長を確保していく「成長×ビジネス」という塊です。
また、これらを実現するためのサポートとして人材を強化するための「働き方改革」の塊や、先程からも話に出ている「データを活用する仕掛け作り」の部分。
或いは、自社の外にあるアセットをうまく使うために、エコシステム、パートナーシップを結んで新しい価値を生んでいくという考え方。
企業ごとに力点の違いはありますが「デジタルトランスフォーメーション」においては、これらのすべての要素になんらかの形で触っているという状態になる、というのがこの枠組みです。
実際の事例についていくつかお話しします。
CASE1:AIによるマーケティングの自動化
1件目は、USに本社がある大手コーヒーチェーンの事例です。彼らはアプリやメールマガジンによりユーザーを会員化し、彼らに対してインセンティブのサービスを提供していました。
彼らは従来、エクセルを使ったシミュレーションや、日々のメールフォーマットのチェックなどの古いオペレーションを行っていたため、ユーザーとのコミュニケーション、コンテンツ配信を2週間に1回程度しか出来ていませんでした。
そこで我々は「もう一段テクノロジーを使って最新化しよう」とご支援させていただきました。
何をしたのかを端的に申し上げますと、彼らはマーケティングの部門全体をある種のAIに置き換えました。
「どのようなお客様がいるのか」「その中でもロイヤルなお客様というのはどういう使い方、どういう買い方をしてくれているのか」を分析する機能。更に、新規のお客様がどういうパスを描いてロイヤルカスタマーになる可能性があるかを予測し、新たな販促を打つために自動で計算していく予測モデル。
最後に、お客様のセグメントに応じた最適なコミュニケーション手段(アプリ上のポップアップなのか、Eメールなのか)の策定。これらすべてのAIエンジンによる自動化に踏み切りました。
その結果、当初1〜2週間に1回しか出来なかったコミュニケーションは、お客様の行動にリアルタイムで基づいた最適なタイミングで行われるようになりました。
この仕組みを全米で導入する前後で、営業利益率が8ポイント上昇したと聞いています。これは、AIをコアにしたマーケティング部門のリプレースがもたらしたインパクトの大きさの一つの事例です。
CASE2:ブロックチェーンがもたらす社会的インパクト
もう少し違う例として、ダイアモンドの採掘から販売までを手がける某企業を挙げます。
彼らは元々ダイアモンドを南米等の鉱山から発掘し、正しい品質保証を行って流通させるまでの仕組み作りにあたり、大規模なコストを費やしてきました。これらの仕組みを、ブロックチェーンのプラットフォームに全て乗せたのです。
ダイアモンドというのは、原石の中に存在が分かった時点で「どう切り取ると一番大きく切り取れるか」というのはほぼ一意に決まるそうです。
また、この「一意に切り取った原石」に不純物がゼロというケースはほぼ無いため「どこに不純物があるか」の記録をブロックチェーン上に残しておくことで「どの原石からどのダイアが採れたのか」を数十万分の一以上の確率で特定し、品質保証の仕組みを作っていくということをやっています。
この仕組みの価値は何か。もちろんビジネス上の効率化というのもありますが、それ以上の工夫を彼らはしています。
一つめはいわゆる「ブラックダイアモンド」と呼ばれる裏取引のマーケットを潰しに行くこと。「このプラットフォームに乗っていないダイアには価値がない」という社会的認知を作り、世の中の不正を減らしていくということです。
もう一つは、価値の高いダイアモンドを見つけた人物に対して、そのダイアモンドが取引されるたびにマージンを戻せることです。従来であれば、1回売られたダイアモンドはどこでどう取引されるのか分かりません。この取引データのトラッキングにより、最初に石を見つけた人物に「取引価値に応じて継続的にお金が落ちてくる」仕組みを作ることで、社会的な不平等を解決しにいくという構想が可能です。
これは「デジタルトランスフォーメーションによって自分達のオペレーションを変えていく過程で、社会に役に立つというプラットフォーム作りまで思考していく」ということをやっているという実例です。
キャリアについて考える時のポイント
BCGは、デジタルによる新たなパラダイムシフトによって組織や企業を変える、また先述のダイアモンドの事例のように、社会のあり方や価値観も変えていくところまで踏み込んで支援する、というケースを進めています。
我々は当然「自分達は世の中に対して大きな価値を出すために存在している」と思っています。そのような価値観を持っている方々に是非来ていただきたい、というのがまず一つ目のメッセージです。
ですがもう一つ皆さんにここで申し上げたいのは、就活という機会を通じて「自分自身が何のために働くのか、そのために何を見つけ、身につけて、どのようにプロフェッショナルとしてキャリアを作っていくのか」のデザインを、どんなにラフでも良いので一度是非描いていただいたらいいかなと思います。
企業を選ぶというよりは「プロフェッショナルとして、自分のファーストステップをどう刻むか」が正しいですね。「自分のなりたい人材像の社員がたくさんいらっしゃるから」「自分のやりたいスキルや経験が得られるから」「新しいネットワークや人脈が得られる」「そこにいく事で自分の望む方にキャリアが広がっていく」、色んな考え方があると思います。
多くの方は、目先に得られる経験やスキルにフォーカスしますが、これらのいくつかの要素を広く考えながら、特に「この先何年働くのか」の価値観すら変動しているいま、30年50年単位の長いスパンの中でどうキャリアを築いていくのかを少し考えながら生活していただければよいかと感じます。
BCGについて
BCGの宣伝を少しだけさせていただきます。
まず、BCGの中にあるデジタルのチームはここに表現されているような形になっています。
BCGとして、従来のコンサルタントの中にテクノロジーを深く理解している人間が一定数いるのが「TA」といわれている、左からふたつめの箱の塊。また、さきほどお話したAIアルゴリズムを組むような事例において活躍するデータサイエンティストの塊が「GAMMA」というチーム。
またデザイナーやアーキテクトが本職のチームや、事業の立ち上げをメインでやっていくデジタルベンチャーズなどのチームが存在します。
全社員の約3分の1がデジタルテクノロジーのバックグラウンドを持った形で仕事をする、という組織に変わってきています。 なので、皆さんもBCGに入社するとこのようなビジネスに携わる経験ができる、ということに興味を持っていただければと思います。
また、BCGでは定期的にインターンを実施しています。興味のある方は採用ページからマイページにぜひご登録ください。
私からの講演は一旦以上です。ありがとうございます。
後編(質疑応答編):『社会に与えるインパクトの大きさが「達成感」の指標』DigitalBCG「高部陽平」氏が語る、デジタル化社会におけるプロフェッショナリズム観<後編>
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